もう帰れ、と逸人にドアを閉められた圭太だったが、まだ、ぼんやりそこに立っていた。

 芽以と逸人が話している声が微かに聞こえてきたからだ。

 なにを言っているのかわからないが、ちょっと甘ったるい感じの芽以の声に、その声がつい最近まで、いつも自分の側にあったことを思い出し、目を閉じる。

 そうすると、芽以の声がよく聞こえてきた。

「なまはげ」

 ……なまはげがどうした、芽以。

 いや、さっき、逸人が言ったからか。

 そういえば、あいつ、なまはげ嫌いだったな、と思い出す。

 子どもの頃、お歳暮になまはげが送られてきたことがあって――

 いや、正確には、なまはげというイベントを体験するお歳暮だったのだが。

 親たちは知っていたようだが。

 大晦日の夜に突然、なまはげが家に押しかけてきた。