大丈夫だろうか、私が居ない日、と芽以は固まっていたが、逸人はさすが顔色ひとつ変えてはいなかった。

 いや、この人、いつもこうだから、実は内心、動揺し、雇ったことを後悔しているのかもしれないが。

「芽以さん、マスター、よろしくお願いいたしますっ」

 彬光は深々と頭を下げてくる。

 ああいえ、どうもどうも、と芽以も頭を下げ返した。

 まあ、自分のやりたいことを見つけたせいか、元気になってよかったな、と思いながら。

 すると、頭を上げた彬光が、ふと思いついたように訊いてきた。

「ああ、そうだ。
 芽以さんじゃなくて、奥さんって呼んだ方がいいですかね?」

 え、えーと……。
 店内で、みんなの前で奥さんって呼ばれるとか、どうなんだろう、と芽以は思う。

 私、たぶん、常連さんたちにも、ただのバイトかなにかだと思われてると思うんだけど。

 っていうか、こんな形ばかりの夫婦なのに、みんなの前で、奥さんとか恥ずかしいような、と思い、芽以は、すすす、と視線を逸人に向けてみた。

 逸人は無表情だった。

 ……まあ、いつものことだが。