兄貴と居なくていいのかと思いながらも、夕方、アトラクションに乗ったときの話を楽しそうに語る芽以の話を聞いていた。

 やがて、圭太がやってきて、
「観覧車越しに見た方が綺麗だってよ、花火」
と芽以を誘う。

 芽以は自分も誘ってくれたが、一緒に行っては悪いかと思い、もうちょっとしたら行くと言って、そこにとどまった。

 微かに雪が降る中、自分は、芽以が居なくなったベンチをひとり見つめていた。

 ベンチには、きっと、まだ、芽以のぬくもりが残っているのに――。

 顔を上げると、芽以たちはもう橋のところまで行っていた。

 芽以がくしゃみをし、圭太が笑って、自分のマフラーをかけてやっている。

 祖父のイギリス土産で、圭太が大事にしているものだ。

 圭太は躊躇無くそれで芽以をぐるぐる巻きにしていた。

 鼻水つくぞ……と思いながら、遠目に見ていた。

 笑いながら行ってしまう二人が、あのとき、確かに恋人同士に見えていたのに――。

 逸人は今、手の先に居る芽以を見る。

 彼女が、此処に居ることが今も信じられない。

 だが、
「……芽以」
と呼びかけてみたが、返事はなかった。

 寝てる!

 もうかっ!?