悔しくて悲しくて、自分の無力さに腹が立って涙が出た。


いつもならすぐに終わる動画はまだ再生されたまま。


幾田さんは画面をじっと見つめて、ゆっくりとフードを取った。

黒髪で血色のない顔と目が合ってドキリとする。まるで目の前に幾田さんがいるかのような感覚。


頭の中で幾田さんの姿は何度も想像した。


大人しかった彼女がこんな残酷なことをするとは思えなくて、もしかしたら殺しているのは別の人なんじゃないかと考えたこともある。


けれど、フードを取った姿は紛れもない幾田さんで、その頬や握りしめたハサミには生々しい血がついていた。



「……幾田さん、どうすれば許してくれるの……?」


スマホの画面にぽたぽたと涙が落ちても、彼女はただ無表情でこちらを見つめているだけ。


なにも語らない代わりに感じ取れたのは、復讐をしてる喜びじゃなく、ましてや達成感でもない。


あの教室で、29人から浴びせられた視線や孤独感。


耐え難いいじめの日々の中にいた幾田さんのまま、とても悲しい瞳をしていた。



もしかしたら、幾田さんはいじめから解放されていないのかもしれない。


死んでも尚、解放されることのない苦しみや辛さや痛さ。


本当に些細なことがきっかけでいじめに発展して、みんな軽い気持ちでやってた。



でも、人を傷つけるって、こういうことだ。


人の心を壊してしまうことが、こんなにも罪深いことなんだって、幾田さんの顔を見て思った。