時間は夜の10時過ぎ。木崎梓紗(きざきあずさ)こと私は自分の部屋で英語の復習をしていた。


……よし。今日はこのぐらいでいいかな、とシャーペンをテーブルの上に置き、固くなった肩をほぐすようにして両手を「んー」と上に伸ばす。


ピロンッ。と、その時。スマホからラインの通知音が聞こえた。

すぐに画面を確認すると、メッセージは友達の小島千鶴(こじまちづる)からだった。



千鶴とは高校に入ってから知り合い、今ではあず・ちづ、と呼び合うぐらいの仲良し。どうやらちづも私と同じように勉強をしていたようで『疲れた~』というスタンプを送ってきた。


私は無料のスタンプしか持ってないけど、ちづは定期的に有料のスタンプをダウンロードしているから、いつも画面を華やかにしてくれる。

続けざまに変なキャラクターのものまで送ってくるから私はひとりでクスリとしていた。



ピロンッ。

すると、再び短い通知音が鳴った。

メッセージは珍しく1年A組のライングループからで、私はなんだろうとすぐに確認した。




【予告動画 麻生唯菜】


意味の分からないメッセージの下には動画が一緒に送られてきていた。



麻生(あそう)さんはクラスメイトであり、女子の中で最も目立っている存在と言っていいぐらい発言権がある人。

化粧も髪の毛も爪もいつも綺麗にしていて、口を開けば自慢話か男の話ばかりだけど、麻生さんには誰も逆らわない。


そんな彼女の名前の前に書かれた予告動画という文字。


私は何気なく動画の再生ボタンを押した。