「皆さん。これからアンケート用紙を配ります。名前は記入しなくていいので正直に書いてください」
私は一時間の授業を潰して、生徒たちに呼びかけた。30人の生徒に配ったのは、いじめについてのアンケート用紙。
「は?なんでそんなの書かなきゃいけないわけ?」
「っていうか、うちのクラスは仲良しですから。ね?みんな」
「そうですよ。こんな風に大げさにするのは良くないと思います」
たしかにこれがきっかけで、立場の弱い人はさらに目をつけられる。だから、他の人に話すことができない。
助けてと、訴えることもできない。
それが、いじめだ。
「どんなことがあっても私が守ります」
そう言うと、クラスで一番大人しい女の子が顔を上げた。
味方がいるということ。ひとりで戦う必要はないということ。それを知ってほしい。
「私はこのA組の担任です。でもすべてを見張ることはできません。だから教えてください。どんなことをしてるのか。どんなことをされたのか。からかってるだけ。いじってるだけ。命令されてやってるだけ。なんでもいいのであなたがいじめだと感じるものを書いてください」
人は簡単に、悪魔になる。
集団でいれば強くなったような気になって、人の気持ちが分からなくなる。
あとで、後悔しても遅い。
みんなが笑ってやっているいじめで、人が死ぬことがある。
取り返しのつかない、復讐がはじまってしまうこともある。
「もう一度言います。正直にすべてを教えてください。私は絶対にいじめを許さない」
もう二度とあの悲劇を繰り返さないように、私はこれからもこの痛みと向き合っていく。
《了》