「なんでちづが持ってるの?」

たしか幾田さんはつねにノートに挟んで大切にしてたはず。



「……麻生さんたちに盗んで捨てろって言われたの。私、断れなくて……。幾田さんどこかに落としたんじゃないかって、ずいぶんこのクリップを探してた。私は返すこともできなくて、ずっと自分で持ってたんだ」


ちづがぎゅっと唇を噛み締める。



「私も他の人たちと同じで、自分はそんなにひどいことをしてないって言い聞かせてたけど、そうじゃないよね。29人全員からなにかをされる対象になっていた幾田さんはきっと毎日毎日怖かったはずだよね……」


「……ちづ」


「だから私もいつか予告される。ひとり生き残る可能性があるなら、あずに残ってほしいと思う」


ちづはそう言ってぼろぼろと大粒の涙を流した。



「なに言ってんの……っ」

私はちづの言葉にもらい泣きをしてしまった。




「……っ、あず、私、死にたくないよ……」


小刻みに震えるちづを抱きしめて、私たちは道の真ん中で子どもみたいに大泣きをした。