小学2年生のわたしは、夏休みの宿題である作文に取りかかっていた。


タイトルは『将来の夢』。


国語が得意なわたしはすぐに書き終えた。



『綾~宿題終わった?』


『うん』


『早っ。2年って宿題どんくらいあんの?』



4年になってから宿題マジ増えたー、とぶーぶー言いながらわたしに近づいてくる。


そのまま勉強机をのぞきこまれた。


わたしは急いで算数ドリルを動かし、原稿用紙を隠した。



彼は不思議そうな顔になった後、何かに気がついたようで。


なんだよー見せろよー、と詰め寄ってきた。



作文に書いたこと。それは恥ずかしくて見せたくないものだった。



『やだ! やめて!』



と、必死に叫ぶと、


彼は悲しそうな顔になり、ごめん、とつぶやいた。



だって、わたしの将来の夢は……



「……ちゃん」



あれ。誰かに呼ばれている。わたしのこと? てか、誰の声だろう。



「お姉ちゃん!」


「はっ!」



がばっと布団の音を鳴らし、上半身を起こした。


1回大きなまばたきをしてから、まわりを見渡す。



「お姉ちゃん起きて! 朝ごはんできたよー!」


「あ、あれ? 夢?」


「あははっ、寝ぼけてるー。お姉ちゃんが寝坊するなんて珍しいじゃん」



澄花ちゃんの笑顔が視界に入る。


ぼんやりしている間に、彼女は部屋のカーテンを開けてくれた。



「わ、もう7時半。澄花ちゃん、起こしてくれてありがとう!」


「はいはーい。先リビング行ってるねー」



澄花ちゃんは、私立中学の清楚な制服をひるがえし、部屋を出て行った。



新しい家族、新しい学校、新しい生活。


慌ただしく時間は過ぎ去り、わたしはあっという間に中3になっていた。