小学校の途中までは、違う苗字だった。
お父さんとお母さんの離婚により、母の旧姓である『坂口』姓になった。
苗字が変わったことにより、からかわれたり、いじめられたり、変な噂をされたりした。
わたしも苗字が変わることはすごく嫌だった。
でも、お母さんについていく身だったため、仕方がなかった。
「綾。どしたの?」
お母さんと約束した前日。わたしは久々に優にぃと会っていた。
今いるのは駅ビルと駅ビルを空中でつなぐ連絡通路。
ぼんやり窓から見える景色をながめていたら、優にぃに顔をのぞきこまれた。
「わっ、びっくりした!」
鼓動の音が全身に響く。
急に顔が近づけられたのと、目をじっと見つめられたから。
「なんかあった? 思いつめた顔してる」
「なんもないよ! 電車いろいろ走ってるなぁって見てただけ」
「へー」
優にぃは景色を背にして、疑わしげな表情でわたしを見た。
やっぱり彼に隠し事は通用しない。
でも、言えない。
「それより、わたし今度友達の家、遊びにいくんだ」
「サーヤちゃんって呼んでくれた子?」
「そう! お菓子作って持っていこうかなぁって」
核心に迫られる前に、違う話をして逃げた。
笑顔を作って、楽しい話をして。
優にぃに変に心配されないよう頑張ると同時に、自分の不安をかき消した。
『今日の綾、様子おかしかった』
『そんなことないよ! 今日も優にぃといれて楽しかった!』