世界で一番似ている赤色








「ただいま」



家に帰ると、お母さんはいなかった。


今日は残業ということになっているらしい。


豊さんも出張中で帰ってくるのは週末だ。



リビングでは、澄花ちゃんが1人、ご飯を食べていた。


わたしの顔を見るなり、気まずそうに食のスピードを速めた。



「ごちそうさま。宿題やらなきゃ!」


「待って」



逃げようとした彼女を止め、食卓に座らせた。


正面にわたしも座る。



「澄花ちゃんは、川瀬くんが好きなの?」



直球で聞いた。澄花ちゃんの瞳が揺らいだ。



「ごめんなさい……お母さんに勧められて家庭教師やってもらう予定だったから、連絡先交換してて……」


「そっか。おどされたわけじゃないんだね。姉の秘密ばらせ! って」



小さな子どもに語りかけるような口調で、優しく言葉を投げかける。


川瀬くんを上手く処理できなかったわたしが悪い。


だから、澄花ちゃんを責めるつもりはない。



空気を呼んだのか、彼女はポツリと言葉をこぼしてくれた。



「呼び出されて、写真のこの人知ってる? って聞かれた」


「で、答えたんだ」


「ごめんなさい……だって、川瀬さんの頼みだから断れなくて……だって好きだから」



うるうると瞳を震わせてから、下を向く澄花ちゃん。



今まで全く男の子の気配はなかった。


きっと初恋なんだろうな。



「頑張って! 川瀬くんいい人だから。わたし、お姉ちゃんとして応援してるよ」



澄花ちゃんに思いっきり笑顔を向けた。


あんな男子好きになって、本当どうしようもない子、と思いながら。