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ビューラーでまつ毛を上向きにして、マスカラで厚みを出す。
色付きのリップを二重に引き、唇に赤を加える。
長そでブラウスの上に、肩ひもがついたロングワンピースを重ねて、鏡の前で一周。
わたしを追いかけるようにスカートの裾が広がり、その風に甘い香りのミストをひと吹き混ぜた。
「よし、行くか」
別におしゃれをする必要はないけれど、
わたしも中学生になったんだし、少しは大人っぽさを出さないと。
知っている人に会わないよう、小走りで駅へと向かった。
たくさんの他人に囲まれながら、電車に揺られる。
今を抜け出し、新しい世界に向かっている感じがしてワクワクが増した。
改札を出ると、すぐにその姿を見つけることができた。
「優にぃ!」
人混みをかきわけ、大声で彼を呼ぶ。
柱にもたれてスマホをいじっていた彼は、わたしへと視線を向けた。
そして、少しだけ驚いたような表情になってから、ふわりと目を細めた。
前よりも雰囲気が大人っぽくなった。
でも、その優しい笑顔は変わっていない。
懐かしくて、胸が高鳴った。