ー薫視点ー

ㅤ私には少々惚れっぽい所がある、しかも好きになってしまうと周りの事など見えなくなる。好きで好きで好き以外の感情が頭の中からなくなって好きな人の全部が知りたくて欲しくなってしまう。

「そんな所も直さないとだめですよね。」

桜並木に似つかわしくない淀んだ表情でため息をつく。

ㅤ今日は待ちに待った新学期である、寮から出ると学校までの道は桜で覆い尽くされている。今日から新しく二年生になる、マンモス校なので仲が良かった友人と同じクラスになれる確率はあんまり高くない。それだけでも心配なのに、もう一つ心配なことは。

「好きな人、しばらく出来なければいいけど……。」

そう、さっきもいったが自分はだいぶ惚れっぽい。何を隠そう私は春休み中に元彼から振られてしまった。原因は私の行動のせいらしい。自覚している所なので何も言い返せずそのまま別れてしまったが、やっぱり暫く恋愛はしたくない。

「学生の本分は勉強、頑張ろう。」

鞄を持っていない手で小さくガッツポーズ、勉強は幸い苦手な方ではない。新しく学べる分野にドキドキしている自分もいる。今日はまだ、入学式がある為ホームルームだけで終わってしまうが寮に届いている新しい教科書の事を考えて少し楽しくなった。その時、

「あっ、ごめんね。痛くなかった?」

自分より少し背の高い男子生徒にぶつかった。肩がぶつかっただけなのでそんなに痛くはなかったが、男子生徒は心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「いえ、大丈夫です。」
「そっか、よかった。じゃあね。」

男子生徒は安心したと笑ってみせると手を振って先を歩いていく。

ㅤ顔が熱くなっていくのを感じた、心臓の音が早くなっていく。心配してくれた顔、緩んだ顔。全部素敵だった。

「……好きになったかも。」

恋愛は暫くしたくないなんて嘘だった、こんなに幸せな気持ちになるならやっぱりするしかない。私はスマホを取り出すと無音カメラで男子生徒の後ろ姿を何回も撮影した。