なんだろう。
前よりも、燐さんのこのセクハラっぽい冗談を真に受けずに流せているような。
慣れって、すごい。
「っていうか、別に相手のことばかり考えてきたってことも……ないよ」
声色が、少し変わった気がした。
「キミが想像できないくらいには、めちゃくちゃ生きてきたからさ。今更、特定の誰かと愛のある行為をし合う資格ないかもね。もちろん望んでもないけど」
そういう燐さんは、どこか寂しげに見えた。
やっぱりそんなことを言いつつも
望んでいるんじゃないかな。
好きな人との、そういうの……。
「大丈夫です!」
「なにが?」
「燐さんにも“この人だから触れ合いたい”って思う相手が現れて。心もカラダも満たされる日が。……くると思います!」
「……キミって本当に恥ずかしいこと、ベラベラ話すよね」
「……!?」
「聞いてるこっちが恥ずかしくなる。そういうとこ愁にそっくり」
「愁さんと?」
「あいつ、みんなの前ではクールぶってるけど。ボクにはジンマシン出そうなこと言うからね。超気持ち悪いよ」
「……そうなんですか?」
「そうさ。見せてやりたかったよ、ユウちゃんに。あいつがボクを引き止めるところ」
――引き止める?
「腕掴んで、離してくれなくてさ。急に強引になって。カレシかっての」
「…………」
愁さんは、強引なところもある。
「実は」
「んー?」
愁さんは、集中力がすごいし
このくらいの声じゃ聞こえないと思うけど
それでも、
ナイショ話をするくらいの声で続けた。
「一回だけって、抱きしめられたんです」


