「アホが。なに疑心暗鬼になってんだよ」
「……!」
「お前には。教えることが山ほどありそうだ」
(は?)
「愁から? ないよ、そんなの」
「大ありなんだよ」
「知らないよ。ボク暇じゃないんだ。もう行くね」
振りほどこうと、腕を上下に動かす。
……力でこいつにかなうわけがない。
両手を使っても、外せない。
「ったく。お前は。そんな……女子みたいな身体で」
「はあ?」
離せ。
「ここまで。たった一人で、やってきたのか」
「……っ」
――離せよ。
「叫ぶよ、痴漢だって。そしたら困るのはキミだ」
「じゃあ口も塞いでやろうか。まだ片手余ってるからな」
「離さないと刺すよ。受験生が、利き手に大きな穴あけちゃっていいの。それとも。めった刺しにされたい? しばらく入院してる?」
「なに慌ててんだよ」
「……は?」
「余裕ないのどっちだよ」
「……!」
「行くな。俺と、来い」
――愁と?
「こんなとこじゃ腹割って話してられねーだろ。黙って俺についてこい」


