仕事どころじゃない……気になって気になって集中できない。
穂乃香さんも翔太郎も心配だ。

塾に戻った私は暗闇から、脱出できないでいた。

「…美園先生、美園先生」

私はハッとして、我に返った。

「あ、立石先生、どうしよう?」
周りも気にせず、思わず、泣きすがってしまう私。

「ああ、僕もニュース見ました。美園先生しっかりして下さい。今日は、僕、保護者対応もしますから」

私のあまりにも酷い醜い顔に、立石先生も驚きを隠せなかった。
伊原先生も心配そうに覗き込んだ。

「ごめん、ありがとう。ちょっとだけ休んできてよいかな?1時間くらい」
私は珍しく仕事より、自分の心と体を優先した。

「わかりました。安心して休んで下さい」

「ありがとう。何かあったらすぐ呼んで」

私はガンガンする頭を抱えながら、2階へ上がった。




私は、窓際にあるソファーへ飛び込んだ。
そして、スマホを握りしめ、翔太郎にLINEした。

『翔太郎、事件のことテレビで知りました。
穂乃香さんは大丈夫?すごく心配です。
連絡下さい。』




頭が痛い……ズキズキする。
今日は、きついかも。
とにかく薬飲まないと。

リビングのクローゼットにある救急箱から、頭痛薬を取り出し、私はゴクリと飲み込んだ。
そして、またソファーへ戻った。

ちょっと寝たい。
寝たい……でも、眠れない。
体全体が興奮している。

大丈夫、私は大丈夫、しっかりしなきゃ。

私は、再びLINEを開いた。
ふと、LINEニュースが、私の目に飛び込んだ。

『集団食中毒の原因は、O-157が原因か?死者6名に。』

えぇー
やばいやばい。

私は顔が青ざめていくのが、自分で強く認識出来た。
これは、営業停止は確実だ。


ダメだ、休めない。
一旦、忘れよう。
それしか方法はない。



しばらくすると、薬が効いてきて、少し楽になった。

よし、仕事しよう。
頭を切り替えよう。
私は私なんだから。


私は、塾へ戻った。