「裏切り者とは心外だな。俺はヴラフォスの皇子で、メアリ王女を守る騎士。皇帝を陥れる者を、王女に手を出そうとする者を捕らえ、償わせる為に動くだけだ」


言い終えると、剣尖が夜気を切り、迫る兵士の鎧を貫いた。

今眼前にあるこの光景は、まさに先ほどメアリが予知で視たものだ。

ヴラフォスの騎兵に扮した近衛騎士たちがメアリとユリウスを窮地から救うというもの。

しかし、どうやってここまで入り込めたのか。

この人数がイスベルの門を通れば怪しまれるはずだ。

喜びながらもそのことを不思議に思っていると、飛んできた矢をユリウスが剣で弾き、地面に払い落とした。

軽くやってのけているが、恐るべき動体視力と高度な技術に目を見張りながらもメアリは訊ねる。


「ユリウスはみんなが来るのを知っていたの?」

「兄上の策だ」


ユリウスが答えた時、黒毛の馬がメアリに駆け寄り止まった。


「メアリ王女!」

「イアン様!」

「ご無事ですか!?」

「はい、ユリウスのおかげで怪我もなく。それよりも、ルシアン皇子に手を貸してもらったと今聞きました」


イアンは頷くとモノクルの位置を指先で直す。


「ええ、まさしく」