多勢に無勢。

この劣勢を覆す方法はないのかと、血が滲むほど唇を噛み締めた直後、ドドドッと、目指すべき森の中から新たに駆ける音が聞こえてメアリは恐る恐る背後を確認する。

森の奥から黒羽根のカラスたちが飛び立つのが見えると、木々を背に現れたのは、ヴラフォスの紋章が入った深紅の外套を頭から羽織った騎兵。

その数はおよそ百。

絶体絶命に追い込まれ、モデストの口元が勝利を確信するように吊り上がった瞬間……満月が姿を現し、メアリが動きを止めた。

モデストが訝しげに目を細め、濃紺の空に煌々と輝く月を見上げる。

そして、ついに時が来たのだと気づき弓兵の構えを戻させるのと、メアリが振り向いたのは同時だった。

赤く染まるメアリの瞳からは怯えが消え失せ、モデストをしっかりと見据える。


「何を視たのだ」


呟き、モデストが眉根を寄せるとメアリは右手を高く上げた。

すると、外套を纏う騎兵らが一斉に武器を抜き構える。

今度はユリウスが口元に笑みを浮かべる番だった。


「反撃の時間だ」

「アクアルーナとヴラフォスの悪夢を、今、終わらせましょう」


ユリウスの声に、メアリの凛としたソプラノが続くと、騎兵隊が一斉に外套を取り去り、オースティンとイアンを先頭に近衛騎士が現れた。


「メアリ王女を守り、ヴラフォスの宰相、モデスト・テスタを捕らえろ!」


騎士団長オースティンが雄々しく叫ぶと、近衛騎士たちの声が呼応し、動揺するヴラフォス兵を目掛けて突進する。

満月が照らすイスベルの地にて、長きに渡るモデストの復讐を終わらせる戦いが、始まった。