一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない



ユリウスが馬の手綱を引き細い路地へと入って素朴な街並みを眺めながら緩やかな坂を登りしばらく進むと、丘の上に建つ宮殿が現れた。

金の装飾が施された黒い門。

その前に立つ若い衛兵がメアリたちに気づくと、ヨハンが先行し「ユリウス様のご帰還だ。お通ししろ」と伝える。

皇帝が訪れるくらいだ。

ユリウスが来ることも事前に知らされていたのだろう。

衛兵たちは疑う様子もなく、門を開きユリウスを通した。

宮殿前の庭を進み、扉の前で馬から降りたユリウスとメアリ。

ユリウスの馬をヨハンが厩舎に繋ぎに向かったところで、木と鉄を組み合わせたどっしりとした扉が開くと、中から黒色フロックコートに身を包む老紳士が姿を見せた。

ロマンスグレーのオールバックヘアと口髭。

老紳士はユリウスを見るなり笑みを浮かべ、目元のシワを深める。


「おおおお! ユリウス坊っちゃま! おかえりなさいませ!」

「クレイグ! 元気だったか?」

「ユリウス坊っちゃまのいない毎日はそれはもう寂しく景色が色褪せて見えていたものですが……おや、そちらの美しいお嬢様は?」

「ああ、彼女は」

「おおおっ!? これはもしや!? 大変だ!! 大変ですぞルシアン坊っちゃま!! ユリウス坊っちゃまがご婚約を!! ルシアン坊っちゃまぁ!」


しわがれた声を張り上げ、そのせいで咳き込みながら慌ただしくエントランスホールへと戻るクレイグと呼ばれた老紳士に挨拶する間もなかったメアリはただ呆気に取られていた。

隣に立つユリウスが堪え切れないとばかりに笑う。


「忙しないのは相変わらずだが、元気そうだな」

「え、ええっと……クレイグさんは、この宮殿でお仕事されている方なんですか?」

「宮殿ではなく、兄と俺の世話係だ。幼い頃からずっと側にいてくれている。特技は早とちり」


やれやれと肩をすくめたユリウス。

今しがた見せられた勘違いっぷりを思い出し、メアリは思わず笑ってしまう。


「入ろう。君の泊まる部屋を用意してもらう」


そう言って、宮殿の中へと入っていくユリウスにメアリも続いた。