フォンタナへは、アクアルーナを出て三日ほどかかる。

その為、街道沿いにある宿場町で夜を明かしつつ、再びフォンタナを目指す行程だ。

日暮れ時、夜の冷え込みが本格的なものになる前の時刻。

体調不良の兵が出たとのことで医療部隊をはじめとした数部隊は遅れているようだが、特に大きな問題もなくひとつ目の宿場町に到着したメアリは、イアンと護衛のユリウスを伴い、町で一番大きな宿屋に入った。

大きな宿屋といってもさすがに何百人も泊まれるわけではなく、多くの兵たちは町の外で野営の準備を始めている。

そのことをメアリは申し訳なく思いつつ、三階の角部屋へと入室した。

天蓋つきの寝台が置かれた広く豪華な部屋に驚いていると、ここは首都アクアルーナに近い宿場町の為、王侯が宿泊することが多いことからこの特別室が用意されたのだとイアンから説明された。


「でも私、みんなと同じ部屋で十分です。なんなら野営でもいいくらい」


むしろその方が楽しそうだとワクワクしながら話すメアリをイアンが呆れた目で見て、そんなふたりの様子をクスリとユリウスが笑った直後のこと。

階下がにわかに騒がしくなったかと思うと近衛騎士がひとり、メアリに向かって膝をつく。


「申し上げます! 遅れていた部隊がジャバウォックに襲われたとの報告。重傷を負った者が数名いるとのことです!」