「ご、ごめんね。遅くまで長居させちゃって」
現在、夜の8時30分。
残り物のパンはご馳走になったが、本気で腹が減ってきたので、帰宅することにした。
「いいよ別に。パンご馳走さま」
「うん、じゃあ明日、お願いします」
そう言って、桃李は深々と頭を下げる。
そんなにかしこまらなくてもいいんじゃ…。
「いや、別にいいけど…」
そして、桃李は頭を上げると同時に、ドアの角にガタン!と頭をぶつけていた。
「お、おい!大丈夫か?」
「あたたた…」
「ったく、相変わらずドジだな。ちゃんと周り見ろよ!」
桃李にひとつ、頼まれごとをされた。
『な、夏輝…明日、朝練ある?』
俺の顔色を伺ってるのか、桃李は少しモジモジしながら、チラリとこっちを見ている。
明日?朝?
「いや、明日は火曜日だから朝練なし」
「ほ、ホント?じゃあ…」
また更にモジモジしている。
言い出しづらいのか?
「なんだよ。何かあんのか。何かあるとしたら、おまえがギャル達にパンを渡しに行く…」
「どうせだから、夏輝も一緒に来て欲しいなって…明日、家庭科室に」
えっ…俺に?
一瞬にして、心中盛り上がる。
桃李が、俺に?
一緒に来て欲しいって…!
「理人も来るから」
「……」
盛り上がりは一瞬で冷めた。
何だ。理人もか。
…はぁ?!理人?
今度は、『怒りの盛り上がり』がフツフツと沸いてきた。
理人は、俺が来る一時間前に、すでにパンダフルに来ていたらしい。
そして、俺に話したことそのまんま、すでに理人には話していた。
それを聞いた理人。
『桃李、明日、俺も一緒に行こうか?』
『え?』
『桃李のことだから、たくさんパン焼いて持っていくんだろ?だから荷物持ち』
『ホント?』
てなわけで、理人の同伴はすでに決まっておりましたとさ。
ちっ。何だよ。
それに、聞き逃さなかったぞ?
『どうせだから、夏輝も一緒に…』
って、どうせだから、だとさ。
どうせだから!って!
まるで、理人のついでみたいな…!
しっかりと傷ついてしまった。
どうせだから…どうせだから…。
俺は理人のついで!みたいな!
(理人のヤツ…!)
何だか、すごくイラッとした。
「じゃあ明日、7時30分にうちに来てね」
「おまえも二度寝すんなよ?」
そんな感じで、純情ラブストーリーは、依然続行中。