『いない』と続ける前に、被さってきた低い声。
ゆっくり顔を上げると、また私に昨日の甘い顔で微笑んでいる朝永さんが居る。

デジャヴ。
今日も朝永さんが話し掛けてきた。

この人、意味が分からない。と瞬きも忘れる程呆然としていると、突然その顔が私に近付いてきた。

突然すぎて、身動ぎすら出来なかった。

朝永さんの顔が見えなくなったと思ったら、私の耳に温かくて柔らかいものが掠めた。

朝永さんの唇だ。

その瞬間、鼓動が跳ね上がる。


「余計な事は言うなって言っただろ」


届いてきたのは聞き慣れた不機嫌な低い声。
先程とは正反対の意味で心臓が跳ね上がった。

すると見えなくなっていた朝永さんの顔が再び見えた。

私はワケが分からなくて瞬きを忘れたままだ。


「今日は残業しなきゃいけないから、一緒に帰れない。だからご飯作って待ってて?」

だってその顔はまた甘い顔。