ーーーーーキーンコーンカーンコーン

次の授業が始まる鐘の音が鳴り、クラスメイトたちは名残惜しそうに各々の席に戻っていく。


「・・・ふぅ」


こっそり、隣で息を吐く声が聞こえた。
やっぱりあんなに攻められたら疲れるよな。
心の中で同情した。


俺は、机の中から教科書とノートを取り出した。
次の授業は数学。
意外と好きな教科だ。
必ず答えがあるからすっきりした気持ちになれるからかもしれない。
反対に、答えが一つとは限らない国語の授業とかは苦手だった。


「ねぇ、真司君」
「?」


小さな声で呼ばれた。
澄んだ声は、もちろん隣の転校生のものだった。


「あのさ、教科書、見せてくれない?」

申し訳なさそうに転校生は手を合わせながら俺に頼んできた。
初日だから分からなくて教科書を持ってこなかったらしい。
初日だからこそ教科書分からなくても全部持ってくるものじゃないのか?
そう思ったけれど、俺は「いいよ」と言って転校生の机と自分の机をくっつけた。
距離が近くなる。


「今日ってどこから始まるの?」
「今日は、ここから」


俺は、教科書を開いて教えてあげる。


「へぇ、良かったあたし知っているところだ」
「・・・」


前の学校では、もう終わっているんだ?
きっとこの場面ではこの言葉が合っていたんだと思う。
でも、俺は何も言わないで、黒板に集中した。
数学の一時間、俺は転校生と一言も話をすることはなかった。