海里は私の手首を掴まえ、真剣な瞳で私のことを見つめた。


「……だから、軽い気持ちで手は出さないし、覚悟もないうちから気軽に結婚しようなんて言わない。……約束する」


結婚、だなんて海里の口から出てくるとは思わず、半開きの口のまま固まってしまう。


「俺は、ずっと離したくないくらい優希奈のことが大切だし、……好きだから」


語尾が風にとけて消えそうなほど小さかったけれど、私の耳にはちゃんと届いて。頬が瞬時に熱を帯びていくのがわかった。

冷たい風が髪を揺らし、つかの間の沈黙が訪れる。



「──海里って、いつから私のこと気になってたの?」

「さあな。同じクラスになったときから、いつの間にか」


私とは目を合わさず、海里は腕につけた黒いブレスレットに視線を落とす。


「……それって、けっこう前だね」

「吹雪の日に倒れているのを見かけたときは、焦ったな。気になっていた女が死にかけているように見えたから……」


そういえば、如月先輩が言っていた気がする。海里が私のことを大事そうに抱えていたって。

もしもあのとき海里が助けてくれなかったら。今頃私はまだ、自分の居場所を見つけられていなかったと思う。