「何で?」 「何が?」 「何で俺が飛び降りるわけ?」 「すごくつまらなそうな顔してたから」 肩をすくめてさらりと答え、再び手にしていた文庫本に目を落とす。 秋の柔らかな陽射しの中、その姿は一幅の絵画のよう。 「…名前は?」 「七瀬颯人。君は?」 「秋川螢」 互いの名前を聞いて、会話はストップ。 颯人は再び文庫本を読み始めた。 それにしても。 ――さっきから俺の心臓の音がうるさい。