「だが、そんなことさせる気はないよ」


対峙するような気持ちできっぱりと告げ、にっこりと微笑んで見せる。
直後、二宮は意表を突かれたような顔になった。


「莉緒を泣かせるつもりはないし、渡すつもりもない」


畳みかけるように、牽制する。
そんな俺の態度に、彼はまごついていた。


「そもそも、大切なものを譲るわけがないだろ」


余裕ぶった表情の裏で俺が焦っているなんて、きっと二宮は知りもしないのだろう。
仕事用の笑顔も態度も繕えないくらいに動揺していることなんて、きっと優しい彼は気づかない。


「それを聞いて安心しました」


程なくして、二宮は小さく笑った。
落ち着きを取り戻した面持ちを前に、まるで自分が試されていたような気になったが……。


「おはようございます」


響いた明るい声によって、俺たちの会話は終わらせることになった。


「あれ? 二宮くん、早いね。部長も、朝早くからお疲れ様です」


笑顔で入ってきたのは、莉緒だった。
今までどんな話が繰り広げられていたのかなんて知らない彼女は、いつものように笑っている。


すっかり普段通りの二宮を見ながら、油断できないな、と心に留める。
もちろん、なにがあっても莉緒を手放す気なんてないが……。談笑するふたりを前に、今夜は彼女にたっぷりとキスをしよう……と密かに決めた――。





【2】「大切なものを譲るわけがないだろ」END

Extra Bonus 【END】
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