私に視線に気づいた智明さんは、ほんの一瞬だけ苦笑したあとで、すぐに冷静な面持ちに戻ってグラスに口をつけた。
彼の表情に込められた意味はわからなかったけれど、お母様から「莉緒さん」と声をかけられて慌てて背筋を伸ばし直す。


「莉緒さんは、智明の部下なんですってね。もしかして、この子に無理に言い寄られたりしてないかしら? この子、父親に似て意外と強引なところがあるから」

「母さん、変なこと言うなよ」

「あら、いいじゃない。ねぇ、あなた?」


お母様の嬉々とした表情にも、社長は眉ひとつ動かさない。
会社でも滅多に姿を目にすることはないせいか、抱いていた厳格なイメージがより強くなる。


「ねぇ、告白はどちらからしたの? ふたりの馴れ初めとか、ぜひ聞かせてちょうだい」

「えっ……えっと……」


矢継ぎ早に飛んできた言葉に、私はまごついて上手く対応できない。
智明さんはすぐに「今日はそんな話はいいだろ」とたしなめ、お母様は彼に「つれないわね」と言って明るく笑った。