「青山さん、コーヒーありがとう。じゃあ、俺は行くね」

「あ、待ってよ。私も一緒に行くから」


川井さんが二宮くんだけを見ていたのは、私も彼もわかっていた。
恐らく二宮くんは彼女がついて来ることを見越していて、だからこそコーヒーの入ったカップを持って足早に給湯室から出て行ったのだろう。


おかげで私は助かったものの、やっぱりモテる人は大変そうだなと考えて苦笑が漏れた。多恵もモテるから時々ふたりのことが羨ましくなるけれど、今みたいなシーンを見ると私には無理だと思ってしまう。

もっとも、なにもかもが普通の私には、今までもこれからもそんな心配は必要ないのだけれど。


「課長、どうぞ」

「あぁ、淹れてくれたんだ。ありがとう」

「砂糖は一本でよかったですよね?」

「え? 入れてくれたの?」


笑顔で「はい」と頷いた私に、穂積課長はふわりと微笑みながら「ありがとう」と返してくれた。
数人分のコーヒーを淹れたけれど、優しい笑顔でお礼を言ってくれたのは課長だけで、たったこれくらいのことでこんな顔を見せて貰えるのが嬉しい。