「莉緒、なにか隠してない?」

「えっ?」


穂積課長との約束ことを考えていた私は、不意に飛んできた多恵の疑問に口元が引き攣りそうになった。
だって、約束のことはおろか、私はまだ課長との関係を誰にも話していないから。


うちの会社は社内恋愛禁止じゃないし、社内で恋愛したり結婚したりしている人たちもそれなりにはいるけれど……。
直属の上司であることや、始まり方が普通とは少しだけ違っていたこともあって、なんとなく言い出せずにいた。


そもそも、穂積課長に釣り合っている自信がないというのも不安のひとつだし、それを置いておいたとしても気恥ずかしさがある。
だから、切り出すタイミングがなかったことを言い訳に、仲良しの多恵にすらなにも話していなかった。


彼女と二宮くんの視線が私に集中していることに、なんとなく気まずさを感じてしまう。
それを隠すように咄嗟に平静を装って、レモンサワーのグラスを片手に「なにもないよ」と笑みを浮かべた。