「あと何回キスしたら、莉緒は俺を好きになるんだろうな?」


ずるい……。

ずっと、連絡もくれなかったくせに。
穂積課長は、本気で私のことを好きじゃないくせに。

『会社では上司と部下だから』と言い切ったのと同じ唇で、こんなにも甘く囁くなんて。


心の中で密かに不満を呟いてみても、課長の言葉ひとつで簡単に高鳴る鼓動がさらに胸を締めつけ、そのずっと奥底を熱くする。
振り回されてばかりいるのは私だけで、〝あの日〟から心はコロコロと感情を変えてばかりいる。


「まぁ、いいか。ちゃんと戸締りしろよ」

「え? 帰るんですか?」


思わずそんな風に訊いたあとで、暗に引き止めてしまっている自分自身に気づいて、熱が引きかけていた頬がまた赤くなっていくのを感じた。


「なに? 泊まってほしいわけ?」

「ちっ、違います……!」


慌てて否定したけれど、もうすぐ終電を迎えるこの時間にあんな言葉を投げかけてしまったせいで、ほとんど説得力がない。
それを理解している端正な顔が、楽しげに私を見ている。