マンションを出てすぐのところに植木があって、あいつはそのレンガのところに腰掛けていた。
「うん、まだいた」
そいつは立ち上がり、俺の前に立った。
諦めが悪いやつだな。
「ところで蓮。一つ気になったんだけど、俺の名前、覚えてる?」
……面白いことを聞くな。
名前だって?
誰一人覚えていない。
覚える必要がない。
「その様子は覚えてないな。俺は、高城和真」
……勝手に自己紹介を始めるなよ。
言われたところで、覚えないぞ。
「お互いに名前を知った。よし、数学教えてくれ!」
「だから、教えないって言ってるだろ。暇じゃないんだ」
そう言って店に向かおうとしたら、前から声をかけられた。
「あれ、蓮。今から出かけるの?」
買い物袋一つを持って、母さんが帰ってきた。
なんてタイミンクだ。
俺は思わずため息をついた。
「蓮のお友達……なわけないか」
ああ、そうだよ。
間違ってない。



