別に、桜が好きなわけじゃない。


ただ、母さんとどこかに出かける、なんてことは滅多になくて、楽しみにしてた。



……それなのに。



橋に立って、満開の桜を見下ろす。



散る時期じゃないにしろ、桜の花びらが川に落ち、流れている。


強い日差しで水面は反射し、キラキラしていて、なかなかに綺麗な景色だ。



これを、母さんと見るはずだったんだ。



下から聞こえてくる子供、大人の笑い声。


楽しそうな、弾むような……今聞きたくない声。



この雰囲気に合わない、俺の心。



場違い感はあるのに、俺の足はこの場から離れようとしない。



みじめになるだけなのに。



「ねえねえ! どうして泣いてるの?」



すると、そのもやもやを吹っ飛ばすような明るい声が、頭に響いた。



隣を見れば、同い年くらいの女の子が満面の笑みで立っている。



春らしいピンク色のワンピースに、高さの違うツインテール。