珍しいことがあるもんだ。



叶花が一つも笑ってない。



いつもなら、作り笑いでもなんでも、絶対に笑顔なのに。



冷静な声は何度か聞いたことはあったけど……



今回は怒りの色が見える。



……俺の心の声、聞こえたか。



なんて馬鹿なこと考えてる場合かよ。



「なんなの……みんな叶花、叶花って……目障りなの!」



叶花に注意されたってのに、彼女は怒りに任せて叫んだ。



……ほぼ初対面のやつに、よくそんなことが言えたな。



いや、この人の場合、結斗さんが関係してるんだろうか。



「ずっと……ずっと櫻木にあんたの話を聞かされた。彼女かって聞けば、血の繋がらない妹って言われて。そんなの、恋愛対象になりうるじゃない」



……いや、結斗さんに限ってそれはないだろ。



「だから、できるだけ叶花の情報を集めた」



そのとき見せた彼女の笑顔は、背筋が凍るような、おぞましい笑顔だった。