その言葉で、叶花の顔から笑顔が消えた。
これはまあ……そうなるよな。
「私、みんなで家族旅行に行きたいの。叶花ちゃんの体のことも考えるとそんなに遠出は出来ないけど……」
それを聞いた途端、叶花に笑顔はさることながら、テンションも戻った。
「旅行、素敵! 行きたい!」
この笑顔が、本当に綺麗に叶花の悩みを隠してしまう。
まったく……
叶花には敵わない。
「そうだ、お母さん。いつもありがとう」
「どうしたの、急に」
理香子さんはあの会話を知らないから、叶花の感謝の言葉が理解できないのは無理なかった。
だけど、不思議そうにしていながら、たしかに照れていた。
「なんとなく言いたくなったの!」
本当、自分の本心以外のこととなると、急に隠しごとが下手になる。
なにかあると疑われないほうが不思議なくらい。
「そう。なんだか、照れるね」
だけど、なぜか誰もそこには突っ込まない。
こういうところがまた、叶花の思いに気付けない原因に繋がるんだろう。
だが、叶花が嫌だと思うことはしない、ということが念頭にある俺たちは、無理に踏み込まないという手段を取ってしまうんだ。