病院に着く直前に結斗さんに行くと言っていたから、出入り口に結斗さんが立っていた。



「お兄ちゃん、お母さんは……?」


「大丈夫。今は眠ってるだけだから」



今にも泣きそうな叶花の背中を、結斗さんは優しく撫でた。



混乱している叶花に、状況を説明するよりもこう言うほうがいいのだろう。


きっと、なにを言ったって叶花の耳には入らない。



「お兄ちゃん、ごめん……」


「どうして叶花ちゃんが謝るの?」


「だって……」



またか。


さっきもそこで止まった。



「とりあえず、中に入ろうか。蓮くんも」



結斗さんは俺と同じ判断をし、そう言った。



「いや、俺は無関係なんで」


「いいから」



結斗さんは叶花と俺の背中を押し、中に入れた。



廊下を歩くけど、病院内だからとかいう理由じゃなく、ただ全員黙っていた。


叶花は俯いていて、ちらちらと髪の奥に見える表情は、ものすごく暗かった。



なんとなく、俺らしくもなく、この空気は変えるべきかと思った。



「結斗さん、帰ってたんですね」