「……私、やっぱり浴衣、着たい」
最近の叶花は、自分のやりたいことをはっきり言うようになったな。
わがままとは違う、やりたいことをすべてやろうとしている、みたいな。
……まさか。
いや、そんなことは考えない。
考えたらいけない。
俺は邪念を忘れるように、深呼吸をする。
「なにも、今日着ることはないだろ。また別の日、浴衣を着て花火でもすればいい」
「蓮くん天才! そのときは、こっこたちも誘おうね!」
……はいはい、好きにしてください。
「瞳ちゃん、祭りって何時から?」
「たしか……五時には始まるはず」
今は四時。
行くにはまだ早いな。
「蓮くん」
俺はそう思ったのに、叶花は行く気満々だ。
「車で行くんだぞ。十分もかからない。どう考えても早すぎだ」
浴衣を着る着ない関係なく、どっちにしろ移動手段は変わらない。
叶花がここにいるのは、母さんに連れていってもらうという目的もあった。



