名字だけじゃない。

私自身がわからない。

家族は?友達は?

どんな生活を送っていたの?学校はどうだったの?


夢での出来事以外、私の頭の中は何もなかった。

どんなに考えても何も浮かばない、からっぽだったのだ。


「何もわからないよね、アリス。それでいいんだよ」


白ウサギが私の様子を見て満足そうに微笑む。


「いい訳ないでしょ!何もわからないことの何がいいのよ!それじゃあ、私の存在なんてないことと同じじゃない!」


白ウサギの訳の分からない言動に腹が立ってきて私は自然と大きな声で白ウサギを怒鳴りつけていた。


「私は知りたい!〝本当〟が知りたいの!」


じっと白ウサギの小さな瞳を力強く見つめる。


ねぇ、教えて白ウサギ。


「どうしても知りたいんだね」


そんな私を白ウサギは悲しそうに見つめる。

そして……


「絶対に教えない」


悲しそうな表情から何か強い意志を感じさせる表情へ。

そのハッキリとした言葉と表情により、何も教えるつもりがない白ウサギの強い思いが痛いほど伝わってきた。


辛そうだと思ったのは私の気のせいだったのだろうか。