「そういうところがアリスの悪いところだよね」


白ウサギが肩を落として困ったように私に笑いかける。


「ねぇ、アリス、本当に知りたいの?これは君が望んだことなのに?」

「え……?」


私が望んだこと?

何が、どれが、何のことが?

思い当たることが何一つとしてない。


「君は誰?」

「ア、アリス……」

「違うよ。ちゃんと名字から名前を言ってごらん。それから〝君〟が何者なのか教えて」


ゆっくり、ゆっくりと丁寧に白ウサギが言葉を紡ぐ。

そしてその言葉はゆっくり私の頭へ入ってきた。


私は〝アリス〟よ。

どうして違うの。

いや、違う。

私には〝アリス〟以外にも名前があった。

名字。名字があった。

だけどどうして。

あんなにも言葉にしてきた名字が驚くほど頭に浮かんで来ない。

まるでそこだけ綺麗に取り除かれたようにぽっかりと頭の中から消えてしまっている。