誰も……それどころか何も頭に思い浮かばない。


私は榊原アリス、ごくごく普通の女子高生だ。

家族だっているし、学校の友達だっている。


なのに何故か家族の顔も友達の顔も思い出せない。


私はこの間まで一体家族や友達とどんな生活を送っていたっけ?



「気持ちが悪い」「何でそんな色なの?」「普通じゃない」「化け物」「近寄るな」「こっち見んな」「お前なんて生まれて来なければよかったのに」



あぁ、何で今昨晩の悪夢を思い出してしまうのだろう。



「っ!?アリス!?」


誰も思い浮かばない所か嫌な悪夢を思い出してしまった私をギョッとした様子でヤマネが突然見つめる。


な!何!?


「ど、どうし……っ」



疑問を口にしかけたところで私はヤマネの表情の意味をすぐに察して言葉を詰まらせた。


声に出すまで気づかなかったが、その声は鼻声であり、いつも聞き慣れている自分の声ではない。

そして声の変化に気づいたように頬にボロボロと伝う涙にも気づいた。


そう、私は今、ヤマネがビックリするほどボロボロと泣いているのだ。