白ウサギの大きな瞳に私が映る。
そこへ映る私はどんな表情をしているのだろう。

最初この世界へ来た時は帰ることが1番の目的だった。だけど今はどうだろう。
本当に本当の最初は帰ることではなく、あの世界から逃げる為に私自らこちらに来ることを選んだのだ。


「私はもうあっちでは死んでいるの?」


一度、この世界から目覚めた時、私もベッドも血だらけだった。死のうとしたのだ。そうなっていて当たり前だ。そもそも目覚めたと表現したがあれが現実だったのか、夢だったのかも定かではない。

でも私は自分で死のうとした行動はしっかりと覚えている。


「死んでいるよ」


白ウサギは表情ひとつ変えずそう言う。


「アリス、君はもうあちらでは死んだ。君の肉体はもうこの世のどこにもない。魂だけの存在なんだよ」


それでは私に選択肢はないではないか。
あちらではそもそも私は生きていないのか。

魂だけでもあちらに帰ることはできるけど。
私はあんな世界に帰りたいと思う?


ゆっくりと瞳を閉じてあちらとこちらについて考える。

帰りたかったのは全てを忘れて自分が普通の幸せな女子高生だと思っていた私。
ここへ来ることを望んだのは全てに絶望して生きることを諦めた私。


答えなんて考えなくても出ているでしょ。


「私はここに残りたい」

「…っ!アリス!」


答えを口にすると白ウサギが嬉しそうに私に飛びついた。
うおっ!と変な声を出しながらも急に私を抱きしめた白ウサギを私は何とか支える。