「未来を、だなんて……そんなの」


翠蓮は早る胸を押さえて、訊ねる。


「ありえないことだな。―有り得たのなら、叔父上は戦場に駆け出した時から、勝利は父上にあったということが分かっていたということ。でも、軽く見るわけにもいくまい。後宮が燃え上がる、そう予言した紫京叔父上ですら、鳳雲叔父上の予言には勝てないと仰っていた。そして、父上ですら、勘で選んだという道の先が間違っていたことが、一度もない」


そう言われてしまったら、何も言えなくなる。


遺された剣を手に取ると、その剣は思った以上の重さで。


ずんっ、と、くるその重さに手がついていかない。


かすかに震える自身の手を眺めていると、その手を黎祥が支えてくれて、


「鳳雲叔父上と父上の母后は、異世界人」


「……」


「わかっていたのかもしれん。叔父上は」


(そうだね、私もそう思うよ)


鳳雲父様は、赤い目の持ち主ではなかった。


いつも調子のいいことを言うかと思ったら、怒る時や訓練の時はすごく怖くて、自分の人生に真っ直ぐに向き合っているような人だった。


「……恐れながら、鳳雲様を処したのは私です」


鳳雲父様からの剣。


それを眺めていると、もたらされた言葉。


「……助けようと、思いました。例え、先帝からのご命令とあれど……」


歴戦の名将と言われたはずの、練将軍。


彼の俯いたところに、水たまりができる。


―泣いているのだ。


「あの方は、素晴らしい方でした。ここに連れてこられた時、恐れ多くも陛下を弑逆しに戻るように言われても逆らい、他の追いやられていたご兄弟に手を差し伸べられて。死ぬ寸前まで、私に微笑みかけられました……っ」


「……」


口元を覆って、声を震わせて。


それでも、顔をあげない練将軍。


翠蓮は彼に近づくと、彼の頬に触れて、顔を上げさせた。


涙で濡れた顔が顕になると、


「皇后陛下っ、なりません!」


慌てて。


「……父様の最期を、見届けて下さり、ありがとうございました」


翠蓮は優しく微笑んでいるように務めて、黎祥は何も言わず、手渡した剣を持ってくれていた。