「でもね、私に名前を貰うと、私に縛られることになるよ……?」


いいの?、確認のつもりで聞くと、志揮は何故か泣いてて。


「しっ、志揮っ!?」


「ご、ごめ、……っ、嬉しくて……」


「嬉しい?」


泣くほどのことだろうか。


言ってくれたら、いつだって……。


「彩苑とあの日、彩苑が嫁いで別れた時……まともに話せなくて。再会してからの毎日は楽しかったけど、いつも死と隣り合わせ。力のない僕はいつだって君達のお荷物で、安心できる日なんてなくて、やっと、君の役に立てたと思った日、僕は死んだ。死ぬことが、君の役に立つことだと……」


「志揮!!」


「分かってる。彩苑……翠蓮は怒るだろうね。君はそんな子だった」


涙を拭って、志揮は笑う。


「あの日、君と蒼覇を不完全な形でしか救えなかった自分の命を呪った。孤独だった長い年月に、君たちのことを恨みそうになる日もあった。でも、初めて君が手を伸ばしてくれたあの日を忘れないでよかった。大好きだよ、翠蓮」


志揮はいつだって真っ直ぐで、素直で、どこまでも本に溺れていて、何でも知っている頼れる人だった。


武力の方がからきしでも、戦略を立てるのは非常にうまかったし、その点に至っては、誰よりも優っていた。


それに、夜遅くに志揮が一人で慣れない剣の稽古をしていたこともちゃんと知ってる。


彩苑の時だって、命を守ってもらった。


彩苑は蒼覇を守る為に、自分を守って死んでしまった志揮の意志も聞かず、自分の想いのためだけに、志揮を永久の命という檻に閉じこめた。


恨まれるべきは、彩苑であろう。


その生まれ変わりの、翠蓮であろう。


でも、君は泣くんだ。


また会えたって、嬉しそうに。