「……翠蓮は死なないよ」


「……っ、そんなの!あんな火の海の中で、どうやって逃げるというのですか!?先々帝様も……っっ!!」


「死なない」


繰り返して、呟く。


死なない。


あいつは、黎祥を置いて死ぬことは無い。


また後で、と、あいつは言った。


だから、信じてるだけだ。


あいつの言ったことを……悪運強くも生き残ってきた、父を。


「信じることは自由だろう?私は生きたいんだ。翠蓮と、この世界を。この国を守ると、龍神に誓ってしまったから」


生きなければならない。


もし、望まぬ結果が待っていたとしても。


黎祥は皇子として生まれ、皇帝になってしまったから。


(大丈夫だ。彩苑様は、翠蓮は、"愛されている”から)


言い聞かせるしかない。


いつまでも、振り乱していてはいけない。


皇帝には不必要の愛を、認めてくれた人達に報いる為にも。


「……蝶雪、皇子を頼む」


帯剣して、たどり着いた宮を見上げる。


「陛下、何をなさるつもりです」


震える声で、蝶雪は尋ねてきて。


黎祥は振り返りざま、笑った。


「全ては、"龍神様”の意思のままに」