「すまないな」


火消しは、完全に終わってしまった。


集まった人々は翠蘭の指示を聞いて、動いている。


愛晶は無事、恋人に会えただろうか?


今、幸せに笑えているだろうか?


愛晶を失って、流雲は何を考えているだろうか。


どうして自分は、昔から上手くできない?


「私の息子が、お前を殺すとは」


―最初、聞いたときは信じられなかった。


それだけ、鳳雲が勇成に何かをした覚えはないのだが。


緑宸殿は油でも撒かれていたのか、激しく、けれども、夜にふさわしく、静かに燃え、消えた。


「すまない……」


人がざわついて、紛れているからいいだろうか。


人に見えない木陰に位置する大石の上に腰を下ろして、祥星は亡き母から教えてもらった、"南無阿弥陀仏”とやらを唱えてみた。


母は違う世界から来た人で、変わり者だったけど、その分、父に深く愛された人で……この世界にはないことを、たくさん教えてくれたんだ。


『可笑しいわね。私がこんなことを教えることになるなんて。―それは、私の国の文化のひとつよ。祥星、鳳雲。グローバル……ううん、これはダメだわ。通じないし……そうね。世界は広いんだから、色んなものがあるの。どれも見過ごさないように、楽しい人生の歩み方を見つけて、私に話してね』


―たまに、よくわからない言葉が出てきていたけども。


後宮の妃だった母は、宮から出られなかったから。