***



蘇貴太妃は―蘇愛晶(ソ アイショウ)は、とても従順な子供だった。


生まれてきた頃から、皇后となるために育てられた子供だったからだ。


毎日、絢爛豪華な贈り物が、父からは届いた。


多くの妻がいた父にとって、子供など忘れてしまうもの。


存在すら覚えられていなかった多くの兄弟の中で、例え、顔を合わせることがなかったとしても、遊んでもらうことがなかったとしても、贈り物があっただけで、他の誰よりも愛されている気分に浸れた。


父にお礼を言えば、母が褒められた。


きちんとしていれば、父も母も褒めてくれた。


母はよく、愛晶を抱きしめて、『自慢だ』と言ってくれたものだ。


それが、嬉しかった。


両親が笑って、喜んでくれることがただ、嬉しかった。


けれど、ある日。


愛晶のことを自慢だと褒めてくれた母が、死んでしまった。


病による、死だった。


悲しくて、悲しくて、愛晶が何事にも取り組めなくなった時、父は呆れて、


『ならば、お前は要らない』


そう、非情に告げた。


そして、母の遺体を供養することも無く、川に投げ棄てようとした。


―怖くなった。


この人は、愛晶の中に家の利益しか見ていないのだと、悟ったのだ。


愛されていると思い込もうとした自分が、とても愚かに見えて、仕方がなかった。


母を、捨てられたくなかった。


だから、父にしがみついて。


『必ず、皇子を産んでみせるわ!陛下のお役に立つよう、頑張るから……っ!!』


時は、業波末期。


年の頃を考えても、次の帝の妻に愛晶を添えようとしている、父の目論見はハッキリとしていた。