「子供はいいものですね、義姉上」
皇太后のことを、親しげにそう呼んだ紫京様。
「そうじゃろう。そなたは結婚していないからな」
皇太后は遊祥を大切に抱きながら、そう言う。
「昔、約束しましたからね」
「例の、十六夜(イザヨイ)の君か」
「ええ。―彼女以外、誰も愛さないと」
紫京様は遊祥の頬に触れ、寂しそうに笑う。
「……そなたは、母親似なのだな」
「そうでしょうか?」
「そなたの一途さを見てると、そなたの母君を思い出すよ」
飛燕と並んで、二人の様子を眺める。
(母様……)
あの日、聞かされた二人の妃の過去。
涙が溢れて、父の凄さを聞かせられて。
それを知っていて黙っていた、彼女たちの気持ちも分かる気がして。
(私の、本当の母様……)
それが誰なのか、彼女たちは教えてくれなかった。
父親が誰なのかも教えてくれないまま、事件の終結が、儀式が近づいた。
「……翠蓮」
名前を呼ばれて、飛燕を見上げる。
この国を長年見守ってきた飛燕も、きっと知っていた。
「大丈夫よ」
微笑んでみせるけど、飛燕の表情からは不安は拭えない。