『黎祥、お前は……』


―君に言えない、あの人の最期の言葉。


一体、自分は何人の人間を見送る側に立つのか。


「―黎祥♪」


「……遅いぞ。今、別の人間に頼んだ」


「あれー?すぐに来てあげたのに」


「年のせいで、耄碌したか?―大賢者様は」


「相変わらず、鳳雲以外のことは敬う気ないんだ?」


「ない」


「わーおっ、即答。偉くなったもんだね、あんなに小さかった皇子様が」


「…………」


ケラケラ笑う、不思議な格好をした男。


「ヒロセ」


不思議な棒を加えた大賢者は、ふわふわと宙に舞って。


「梅ばあ、死んじゃうよ?だって、おばーちゃんだもん」


「生きているだろう。そう、簡単にくたばる女ではない」


「どうして、そう思うのさ?前世の記憶と共に、幼い頃の記憶を取り戻してからというもの、やけに強気だねー?……さっき、大切な女に問われた時、覚えてないと答えたくせに」


冷ややかな目を向けられて、黎祥は息をつく。


「―お前は何をしたいのだ、ヒロセ」


「何って?ただ、人生を謳歌しているだけだよ?」


「……冗談はよせ。一体、何度、こんなことを繰り返して」


「失礼な。……愛された女達が皆、僕のせいであんな人生の結末を終えたとか言うわけ?心外なんだけど」


「……」


「お前はただ、その女を大切に愛しておけ。二度と手放さないように……それと、言っとくけどね、僕だって、こんな人生は望んじゃいなかったよ。最も、"あっちの世界”の幸せだっていらなかったけどね」


ヒロセは最後に遊祥の元へ寄り、


「……うん、可愛いね」


と、満足そうに笑うと、


「じゃあね、黎祥。―君が思い出してくれて、何よりだ」


その場から、消えた。


神でも、仙人でもない不思議な個体。


存在している、不思議な……。


「ヨシザワカノン……」


……"あちらの世界”。


果たして、今回の事件に、何か関わりがあるのだろうか?