祥基が手を離すと、黎祥は祥基の手に金の指輪を握らせてきて。


「おい、俺は金が欲しいわけじゃ……」


「違うんだ」


縋るような、声。


祥基の手を握った黎祥の手は冷たく、どこか震えていて。


「……これで、翠蓮を守ってくれ」


と、言った。


その震えは、本気で翠蓮を思っている証であると解釈した祥基の頭はだいぶ冷え、


「…………お前と翠蓮は、夫婦になったのか?」


そう問うと、


「そんなこと、私に出来ると思うか?」


と、黎祥は泣き出しそうな顔で笑った。


「……なっていないのなら、お前が翠蓮を守れなんて言う必要は無いはずだが?」


祥基には、不思議で仕方なかった。


どうして、黎祥はこんなにも翠蓮を大事にしているのか。


「…………そうだな。でも、私にはこれくらいしかできない。翠蓮を愛しているが、私には後宮の一人にしてやることしか出来ない。彼女を自由にするではなく、縛り付けることしか出来ない。自分の身の上を、ここまで憎んだことはない。皇帝でなければ、翠蓮をこの腕に抱きしめられたのに」


黎祥がそういった時、自然に、祥基は理解した。


愛していても、伝えられない苦しみ。


その全てを、彼は乗り越えられずにいる。


そして、泣く翠蓮を一番見たくないのは、彼自身なのだと。