「飛燕がお前達に記憶を与えようとしなかったのは、一重に翠蓮を思うていたから。愛したものを守って死んだ、お前ならまだしも……喪った、彩苑はどうなる」
「……っ」
尋ねられて、愕然とした。
だって、まさか―……ああ、そうか。
「いつも、嘘をつくのが下手だった彩苑の嘘を、見抜いていたのはそなただけ」
お前は、何も変わってなかった。
「本当の声を聞いてやれ。……もう、そなたしかおらぬ」
変わってしまったのは、今も昔も、自分で。
「光と闇の力が強い、この世の中。大きな運命を背負い、生まれてきたあの娘を愛せるのも、守れるのも」
彩苑は、よく言った。
『私がいなくなってしまった世でも、皆が幸せに笑い合えるような国を。……蒼覇の背中を追いかけ続けて、ようやく、横に並べて、見つけられた夢よ』
……誓ったはずだった。
そのはずだったのに。
「なぁ、時を越えてまで、彩苑を見つけ……翠蓮を愛したのじゃろう?なら、昔みたいに、守れ。最後の日の、彩苑を忘れていないのなら、愛し抜け。誓ったことは、貫き通せ」
―例え、もう二度と逢えなくても、ずっと愛し抜くと。
「皇帝も、庶民も、関係ない。背負わせるのなら、そなたも業を背負え。我らを欺け。―確かに、今のそなたは、皇帝だ。儘ならぬこともある。けれど……昔は、そんな男ではなかった。どんなに困難な状況でも、彩苑以上にそなたが優先していたものはなかったはずだろう?」
この命より、かけがえのない人を。