「―もう、出てきていいぞ」
祥基はお買い上げされた『バイオリン』を包みながら、そこにはいない、誰かに一言言った。
「誰に話しかけておるのじゃ?」
尋ねてきたのは、黒髪の不思議な雰囲気を持つ美形。
女だったら、惚れていたかもしれんが……いや、女に見えないことも無い、中性的な見た目をしている。
祥基は弓を手に取って、楽器とともに布で巻く。
「馬鹿みたいに不器用で、阿呆な幼なじみ。……お前はあいつらと行かなくてよかったのか?」
質問に答えた上で、質問すると、
「ええのじゃ。本来の目的を果たしてはおらぬが―……まぁ、戻ったから施しても良いからの。それに、儂の主は翠蓮じゃ。翠蓮がおらぬ所に行く気は無い。―のう、翠蓮?」
と、彼もまた、問いかける。
瞬間、大きな音を立てて現れた人影。
相変わらず、忙しない。
「……っ、痛て……」
足を打ったのか、顔を歪めている翠蓮。
こいつがいつからここにいたかって?
―黎祥たちが来る前からだよ。
祥基は溜息をつきながら、翠蓮の傍によると、彼女の足に触れた。
「あざができるぞ。馬鹿」
「痛い……骨折れてない?肉、裂けてない?」
「ないない」
「なら、大丈夫だ」
自分の家の裏の倉庫から持ってきたのか、大きな木箱を持った翠蓮。
それを代わりに受け取って、机の上に置く。