「私達は……順大学士の命で……」


青ざめながら、しどろもどろな答え。


「―嘘だな」


黎祥はそれを一蹴し、


「嵐雪なら、もっと上手くやる」


と、彼らを睨む。


「去れ」


「……」


「今すぐ、私の前から消え失せろ!」


そう言うと、彼らは千鳥足で去っていく。


「根性無しが。先帝の時代からの下僕など、私はいらん」


黎祥は一人立ち、そして、呟く。


「……私は、まだ、帰らん」


別れが近づいていることは知っている。


それでも、翠蓮から離れた自分を想像なんてできやしなくて。


一体、いつの間にこんなふうに自分は変わってしまっていたのだろうか。


「―黎祥ー?ただいまー」


顔を覗かせる、愛しい人。


「おかえり」


この思いに気づいてはならなかったのに、翠蓮といると、全てが溢れてしまう。


「おいで、翠蓮」


手招くと、不思議そうに駆け寄ってくる翠蓮。


手を開くと、そこに迷いなく、彼女は飛び込んでくれる。


(……君をこんなにも愛した私は、もう、王には相応しくない)


皇帝は、ただ一人の女人を愛してはならない。


"統治者たるもの、全てを平等に接せよ”


―それならば、王だって辞めてもいい。


それが叶わぬのなら、もう少しだけでも。


「翠蓮―……」


君との夢に、浸らせて欲しい。